レッドドラゴンが飛び去った後。しばらく茫然とドラゴンが消えていった空を見つめていたカイムは、
傍らで同じく茫然と首を振りながら何事か呟いていたヴェルドレが動いたのを視界の片隅に見た。

「立ちなさい」「うう・・・」

ふと、その声が耳に入った。

「立ちなさい」

いつになく厳しいヴェルドレの声。そして幼い少女の声。
その声を認識した途端、カイムの心に再び言いようのない、
重くどろどろとしたものがわきあがった。

―――マナ。

その存在を確認するようにカイムはゆっくりと目を動かした。

「さわるなあっ!!」

ヴェルドレが起こそうと伸ばした手をマナは振り払う。
泣き喚きつつもその赤い目には再び敵意が宿っている。
しかしそれはもうただ強がっている子どものそれだ。

それを見た途端、カイムは勢いよく立ち上がり振り返る。マナが喉の奥から引き攣ったような悲鳴を漏らした。
カイムの心に沸々とわきでたどろどろした感情は、マナを見た途端、一瞬にしてカイムの全身をどす黒いもので満たし、
体全体からわきあがる殺意にも似たそれは目に見えるようだった。さらにその目に浮かんだ、
カイムの内面を現すような暗く沈んだ影は、 目を合わせた者を射殺すかと思われるほどに鋭く、恐ろしいものをまとっていた。
マナはもちろんのこと、ヴェルドレも今まで以上のカイムの異様な様子に背筋をゾッと寒くした。

カイムはなんの表情も浮かべず、荒い足取りでマナに向かって一直線に近づいていく。

「ひいっ!!!!」

そのカイムの様子に心底怯えたマナは、がくがくと震える足で一歩、一歩と後退さろうとする。
上手く動かない足が絡まりマナはぺたんとその場にしりもちをついた。

カイムが来る。

――――ころされる。

そう思った。