―――――こいつのせいで、フリアエは。

――――こいつのせいで、イウヴァルトは。

――こいつのせいで両親は、国は、俺は!!!


カイムはへたり込んだマナを見下ろし、今まで失ったものを思い出した。
幸せだった頃のこと、両親を殺された日のこと、フリアエとの旅、別れ、傭兵として過ごした日々。
フリアエとイウヴァルトとの再会、裏切り、本当の別れ。
二度と戻ることのない日々。全てを。

思いだすたびにこの小さな存在への憎しみ、怒りが増大されてゆく。
マナはあまりの恐怖に泣くこともできず、ただ体を震わせてカイムを見上げている。

この惨劇の元凶、マナ。

――絶対に許さん。

今すぐにでも剣を振りあげ、ぶった斬って殺してやりたい。剣を握る手にぐっと力が入る。
長年の傭兵生活で人を斬ることが心を晴らす最大の方法となっていたカイムは、
マナを前にしての怒りと憎しみを鎮めるためにたまらなくこみ上げる"斬りたい"という欲求を必死で抑える。

――この子どもに死など生ぬるい。

戦争は終わった。カイムにはすぐに斬るものがなくなってしまうだろう。
戦争が終わったのはいいが斬るものがないのはカイムにとってもはや苦痛でしかない。
おさまらない怒り、憎しみ、悲しみ、・・・・失った物への想い。

―――アンヘル。

カイムは心の中ですがるようにその名を呼んだ。
カイムの目にわずかな悲しみのようなものが過ぎった。
しかしすぐさま頭を振りかぶり、再びマナをぐっと殺意を込めて見下ろした。
マナが目に涙を浮かべて怯えている。

――いい気味だ。

その様子にほんのわずかだけ、カイムの気分が落ち着いた。
それを感じ、そうだ、この怒りは、この子どもで晴らすしかない。そう思った。

「カイム・・・・」

マナを見下ろしたまま動かないカイムにヴェルドレが不安そうに声をかける。
その声にゆっくりと振り向いたカイムの目には、なにも映ってはいなかった。
少なくともヴェルドレには見えなかった。

「お主、これからどうするのだ?」

ヴェルドレの問いにカイムはマナを見た。相変わらずへたったまま震えている。
カイムは顎でマナを指す仕草をした。

――こいつを連れて旅に出る。

契約者であるヴェルドレはカイムの声を思念で聞いた。

「この娘を・・・?」

―自分が犯した罪がどれほどのものか見せてやる。

カイムはそう思念で呟き、それが伝わったのか伝わっていないのか分からないうちにヴェルドレに背を向け、
マナを乱暴に引っぱり起こす。すると今まで固まっていたマナは呪縛が解けたのか、カイムの手を必死で振り払おうとする。

「さわるなー!!」

マナがじたばたもがきながらうるさく叫ぶ。その態度が癪に触り、マナの手首を乱暴に引っぱった。
細い腕が折れそうなほど力を込めて。

――絶対に逃がさない。苦しめて、苦しめて、苦しめてやる。

この怒りと憎しみで、永遠に苦しめてやる。
カイムがマナに抱く感情、それは"憎悪"といってよかった。

マナが苦痛に顔を歪め、「はなせ」とうるさく叫ぶのに構わず、カイムはマナの腕をぐいぐい引っぱりながら歩き出す。
後ろでヴェルドレがなにか言っていたが、カイムはもう彼に用は無かった。