痛みは突然だった。
その瞬間、なにが起こったかをカイムは理解できず、ただその衝撃に体中が痙攣する。
目が燃える様だったが、痛いとは感じなかった。
ただ、酷く霞むカイムの目に見えたのは遠ざかる小さな背中だ。
追いかけなければ、と思った。
カイムはただ無我夢中で、なにも考えずに、ひたすら背中を追いかけた。
顔が熱い。前がよく見えない。それでも。
距離はどんどん縮まっていったが、そのかすんだ背中は自分を拒絶しているようだった。
―――待て!!!
その"声"は少女に届いたはずだ。でも、少女は止まらない。
逃げているのだ。距離が縮まる。
少女に手を伸ばす。だが、届かなかった。
突然、少女の姿が消えた。カイムの心臓がどくんと鳴った。慌ててそばにある木の枝に掴まり、立ち止まった。
全身の血の気が引く。足元の土がバラバラと音を立てた。
目の前にはなにも無かった。道がなかった。目の前には深い溝が広がっていた。
霧が漂う下から激しい水の音がしている。森が突然途切れ、崖になっていたのだ。
カイムは激しく息をつきながら呆然と崖を見下ろしていた。
顔中の感覚がおかしかった。肺が苦しく、どこがどう痛むのかわからない。
気を失いそうな痛みの中、その凄まじい精神力でカイムは意識を保っていた。
聞こえるのは激しく鼓動を打つ自分の心臓の音と、激しい水の音。
片目が燃えるように熱い。
体中に噴出した汗。痛み。目の前の光景に酷い眩暈が襲う。
足がかくりと折れる。頭を抱えるようにして地面に倒れこむ。
すさまじい痛みの感覚が時を置いて襲っている。
顔が痛い。いや、目が。
カイムは長い間地面に倒れこんだままひたすら痛みに耐えていた。
ぼたぼたと血が地面に落ちる。
カイムは必死で痛みに耐えながら、片目を開け、立ち上がる。
霞む目で再び崖の下を見下ろす。
カイムは長い間、絶えず襲う痛みに絶えながら、少女が消えていった崖の下を見つめていた。
だんだんと心臓の音が落ち着いてきた。そして、カイムは今起こったことをおぼろげに理解した。
――死んだのか?
・・・分からない。
ただ、マナは行ってしまった。
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