カイムは時間の感覚を無くし、どれくらいの時間が過ぎたのか分からなかった。
気がつくと鬱蒼とした森のなかにぽつぽつと雨が降り出していた。
痛みは相変わらずだったが、今は傷ついた片目周辺に痛みが集中していた。
混乱していた心が次第に冷静になっていく。

マナを、逃がしてしまった。

マナは、カイムの目を傷つけその隙をついて逃げ出した。
その事実に、カイムを酷い喪失感が襲った。
失ってしまった。また、失ってしまった。

カイムは一瞬でも油断したことを悔いた。国を失って戦いに身を投じてから、
カイムの中に養われてきた警戒心は、 戦の終結から数年経った今でもカイムという存在を覆っていた。
ここ数年は、マナと旅を初めてからも隙だけは作ったことなどなかった。

それなのに、なぜ油断したのか。
それは、彼にとって大切な者の苦しみの声が聞こえたからだ。
カイムはその声に激しく動揺した。その声に、まるで自分のことのように苦しみを感じた。
動揺は今も続いている。ここにこうしていた間も、忘れたわけではない。
ただ、その動揺と、目の前で起きた出来事が一度に襲ってきたために、混乱していた。
カイムは今、本当にどうしていいか分からなかった。
なにをすべきが考えられず、動けなかった。

川の音がうるさい。マナのことを考える。
マナは逃げてしまった。

どうして・・・
どうして今さら逃げる。
今はもう、二人の間にあるのは決して冷たい気持ちだけではないと思っていたのに。